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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)8749号 判決 1961年12月18日

原告 横山金三郎

被告 坂本新作 外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「申立人被告坂本五良、相手方原告間の東京中野簡易裁判所昭和二十九年(ユ)第四七号家屋明渡等調停事件につき昭和二十九年三月五日成立した調停の無効であることを確認する。被告坂本新作は、原告に対し、金五万円及びこれに対する昭和二十九年三月二十一日以降完済に至るまでの年五分の金員を支払え。被告坂本五良は、原告に対し、金七万百四十円及びこれに対する昭和二十九年六月二十日以降完済に至るまでの年五分の金員を支払え。訴訟費用は、被告等の連帯負担とする。」との判決並に右判決中金銭の支払を命ずる部分につき仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

第一、

(一)  被告坂本五良は、原告を相手方とし、東京中野簡易裁判所昭和二十九年(ユ)第四七号家屋明渡等請求の調停を申し立て、昭和二十九年三月五日、右当事者に左記条項を骨子とする調停が成立した。

(イ)  昭和二十九年二月六日、原告は、その所有に係る東京都中野区千代田町五十三番地所在家屋番号同町五十三番の四、木造瓦葺平家建居宅一棟建坪十六坪九合八勺(以下本件建物と略称する)を被告五良に売り渡し、その代金を受領したこと。

(ロ)  右建物売買は、昭和二十九年二月五日附原告及び被告五良間の本件建物売買予約(この売買予約による同被告のための所有権移転請求権保全の仮登記は同月九日東京法務局中野出張所受付第一五五五号をもつて経由されている)に基くものであること。

(ハ)  原告が昭和二十九年七月十日までに金三十七万五千円を同被告に支払のため提供して買戻を申し出たときは、同被告は、原告に対し、右代金をもつて、本件建物を売り戻し、同被告のための所有権移転請求権保全の仮登記の抹消登記手続をすること。

(ニ)  原告において(ハ)の買戻期間内に右買戻代金の提供をしないときは、爾後買戻権を失い原告は、同被告に対し、昭和二十九年七月十一日限り、本件家屋を明け渡すこと。

(二)  しかしながら、右調停は、右当事者間の通謀による虚偽の意思表示に基いて成立したものであるから無効である。

元来、原告は、昭和二十九年二月六日、被告五良より金二十五万円を弁済期同年七月十日、利息一ケ月一割と定めて借用する旨を約し、その際原告が弁済期までに債務を履行しないときは、その不履行を条件として右債務の支払に代えて本件建物を被告五良に譲渡する旨の停止条件附代物弁済契約を締結したものであるが、その登記は形式上原告を売主、被告五良を買主とする売買の予約があつたものとして、同被告のため所有権移転請求権保全の仮登記を経由しておき、弁済期日前においても、原告が右借用金二十五万円とこれに対する弁済期日までの約定利息を支払うときは、右仮登記の抹消登記手続をする旨の約定があつたのである。

ところが、同日、同被告の代理人被告坂本新作は原告に対し、「本件は、金員の貸借であるが、形式としては本件建物を原告より被告五良に売却したこととし、右建物の売買と明渡に関し、原告と被告五良との間に紛争があることとして、東京中野簡易裁判所に調停を申し立て、その調停調書を作成しておきたい。」との申出があつたので、原告は右申出を承諾し、原告と被告坂本五良とが相通じて同年三月五日、右当事者間に前記調停条項のような内容の約定が真実諾約する意思がないのに、諾約されたものの如く仮装し、右調停を成立させたものである。

(三)  仮に右調停が通謀による虚偽の意思表示に基くものではないとすれば、右調停は、被告五良の代理人被告新作の欺罔行為により原告がなした意思表示に基き成立したものであるから、原告は、本訴において(被告等訴訟代理人に昭和三十三年九月三日到達の昭和三十二年八月二十七日附請求の趣旨並に原因変更申立書に記載)、右調停応諾の意思表示を取り消す。

被告五良代理人被告新作は、真実調停通りの売買をさせる意思であるのに拘らず、昭和二十九年二月六日原告に対し、「本件は、金員の貸借であるが、原告所有の本件建物の売買の形式を採りたい。但し、これは形式のことであるので、弁済期日前に元金と約定利息を支払えば何時でも売買予約による被告坂本五良のための所有権移転請求権保全の仮登記を抹消するが、形式上、東京中野簡易裁判所に調停を申し立てるから、被告坂本新作のいう通りにのみ発言して貰いたい。」旨申向け、建物売買は仮装のものにすぎない旨原告を申し欺き、よつて原告をして真実は金員の貸借関係であるが、形式上売買としての調停をなすに過ぎないものと誤信させ、右誤信に基き、同年三月五日、右調停条項を応諾させたものであるから、右調停は、被告五良の代理人の詐欺によるもので、前述の如く取消され無効に帰しているものである。

(四)  よつて原告は、被告坂本五良との間の右調停の無効であることの確定を求めるものである。

第二、

(一)  原告は、訴外安田生命保険相互会社の外交員をしていた当時、同会社に対し、保険契約者獲得による百余万円の報酬請求権を有していたので、昭和二十九年二月十日、弁護士である被告坂本新作に対し、将来右報酬の請求をすることについての事務処理を委任する旨の委任の予約をなし、且つ委任契約成立の際の着手金として、予め金五万円を支払つた。

(二)  ところが、その後、同被告が右事件についての成功報酬を取り極めるに際し、原告に対し、取立金の五割に相当する金員を報酬として、その一割に相当する金員を仲介人に対する謝礼として支払うべきことを要求し、又前記調停条項と異なる真実の契約内容についての念書を約定に反して原告に手交しない等の事情が生じたため、原告は、同被告に対する信頼を失つたので、同年三月二十日、同被告に対し、右委任の予約を解除する旨の意思表示をした。

(三)  同被告は、右委任の予約の解除により、原告に対し、原状回復として、さきに原告から交付を受けた着手金五万円とこれに対する受領の日以後の法定利息を支払う義務がある。

(四)  よつて、原告は、同被告に対し、右金五万円及びこれに対する交付を受けた日の後で委任の予約解除の日の翌日である昭和二十九年三月二十一日以降完済までの民法所定の年五分の利息の支払を求めるものである。

第三、

(一)  原告は、第一の(二)の第二段の冒頭で述べたように被告五良より金二十五万円を借用することを約し、右約定に基く借用金として同被告から、その代理人被告坂本新作を介し、昭和二十九年二月六日に金三万円、同月十日に金十七万円、同年三月六日に金五万円以上合計二十五万円の貸付を受けた。

(二)  その後、原告は、同年四月二十日、被告坂本五良の代理人被告坂本新作に対し、貸付を受けた右金二十五万円及びこれに対する各貸付を受けた日より同日までの月一割の約定利息金五万四千八百六十円、合計金三十万四千八百六十円を弁済のため現実に提供したが、同被告は、金三十七万五千円の支払を要求し、右金員の受領を拒絶した。

(三)  他方、原告は、同年四月十九日、訴外東一証券株式会社に対し、本件建物を売却したが、被告五良代理人被告新作は、昭和二十九年七月十日までに金三十七万五千円を原告が支払わないときは、本件建物について被告五良のための所有権取得登記を経由し、且つ第一の(一)の調停調書に基き建物明渡の強制執行をなすべき旨を言明したので、原告は建物の売主として買主である前示会社に完全な所有権を取得させる義務があるので、被告等に右言明を実施させないため、昭和二十九年六月上旬やむなく買主会社が原告に代位して、被告新作に対し、その請求にかかる金三十七万五千円を支払うことを承諾したので、右会社は原告の承諾に基き被告新作(被告五良代理人としての)に対し、同年六月二十日、金三十七万五千円を支払つた。

(四)  この結果、原告は、右会社に右金額と同額の金員を償還する義務を負担することとなつたが、被告坂本五良が原告に請求し得る金額は(二)の金三十万四千八百六十円に過ぎないから同被告は、法律上の原因なく、その差額金七万百四十円を原告の負担において利得したが、右利得が前述のように法律上の原因のないものであることは、利得当時同被告代理人である被告新作において知悉していたものである。

よつて原告は、右理由に基く不当利得を原因として、同被告に対し、右金七万百四十円及びこれに対するその交付がなされた日である同年六月二十日以降完済までの民法所定の年五分の利息の支払を求めるものである。

(五)  仮に以上の利得額の算定が理由がないとしても、

被告坂本五良は、昭和二十九年三月二十一日、原告に対し原告がその借用金を同年五月十日までに弁済するときは、前記第一、(一)、(ハ)の調停条項記載の金三十七万五千円から元金二十五万円に対する弁済の日の翌日以降弁済期である同年七月十日までの日数に応じ一ケ月一割の利息に相当する金員より金一万円を減額した金額を控除した金員を支払えば、同被告のための前記所有権移転請求権保全の仮登記の抹消登記手続をする旨を約した。

(六)  そこで、原告は、右契約に基き、同年四月二十日、被告五良の代理人被告新作に対し、右金三十七万五千円から元金二十五万円に対する同月二十一日以降同年七月十日までの八十一日間の一ケ月一割の利息金六万六千三百九十八円より金一万円を減額した金五万六千三百九十八円を控除した残余の金三十一万八千六百二円を弁済のため現実に提供したが、その受領を拒絶された。

しかしながら被告五良は(三)で述べた通り東一証券株式会社から金三十七万五千円の代位弁済を受け前段の三十一万八千六百二円との差額五万六千三百九十八円を利得している。

よつて、原告は、被告坂本五良に対し、少くとも右金五万六千三百九十八円及びこれに対するその交付がなされた日の後である同年七月八日以降完済までの民法所定の年五分の利息の支払を求めるものである。

被告坂本新作の抗弁事実は、これを否認する。

と述べた。<立証省略>

被告等訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、原告主張の請求原告事実中、

第一の(一)は認める。

第一の(二)、(三)は否認する。原告は、昭和二十九年二月六日、被告坂本五良に対し、本件建物を代金二十万円の定めで売り渡し、同日、右代金のうち金三万円、同月十日、残金十七万円の支払を受けた。しかしてその後同年三月五日、前記調停が成立したが、その際、原告と同被告との間で右代金を金二十五万円と改定し、且つ原告主張の第一の(一)の調停調書(ハ)の条項の売戻しの約定をしたものである。尚同被告は、同年三月六日、原告に対し、値上分の五万円を支払つた。

第二の(一)のうち、被告坂本新作が弁護士であること、原告がその主張の日時、同被告に対し、その主張のような着手金を支払つたことは認めるが、その余の点は否認する。昭和二十九年二月十日、原告と同被告との間に委任契約の予約ではなく、原告主張のような内容の委任契約が成立したのである。

第二の(二)のうち、原告がその主張の日時、その主張のような解除の意思表示をしたことは認めるが、その余の点は否認する。

第二の(三)の主張は争う。

第三の(一)のうち、原告がその主張の日時、被告坂本新作から、その主張の合計二十五万円の交付を受けたことは認めるが、その余の点は否認する。右金員は本件建物の買受代金として交付されたものである。

第三の(二)は否認する。

第三の(三)のうち、原告がその主張の日時、東一証券株式会社に対し、本件建物を売却したこと、同会社が被告五良の代理人被告新作に対し、原告主張の金員を支払つたことは認めるが、その余の点は争う。

第三の(四)は否認する。

第三の(五)は否認する。昭和二十九年三月二十一日、原告と被告坂本五良との間で、本件建物買戻に関する約定の一部を改定し、原告が同被告に対し、約定の期限である同年七月十日以前に買戻すときは、前記代金三十七万五千円から元金二十五万円に対するその日以降右七月十日までの日数に応じ、一ケ月一割の金員を減額する旨を約定したものである。

第三の(六)は争う。

と述べ、被告坂本新作に関する抗弁として、

原告主張の第二については仮に本件委任契約(原告は予約と称するが)の解約により、被告坂本新作が何等かの不当利得をしたとしても、東京地方においては弁護士が事件処理の委任を受けて受領した着手金は弁護士の故意又は重大な過失によらない事由により解任された場合には、返還しない慣習があり、本件着手金も右慣習に従う意思の下に授受されたものであるところ、同被告は、右委任契約に基き、原告と安田生命保険相互会社との間の報酬契約の存否又は報酬規定若しくは慣習の内容の調査に着手した後、その責に帰すべからざる事由により解任されたのであるから、同被告は、原告に対し、本件着手金五万円を返還すべき義務はない。

と述べた。<立証省略>

理由

まず調停無効確認請求につき判断する。

原告主張の第一の(一)の事実は、被告坂本五良の認めるところである。

そこで原告主張の第一の二の事実につきしらべてみると、原告は、本件調停では建物を原告が被告五良に売渡したことになつているが、その実は原告が同被告より金員を借用し、借用金を返済できないときに代物弁済として建物を同被告に譲渡する約定であつたと主張するが、これに相応する証人横山つるの証言、原告本人の供述は後記証拠に対比してたやすく信用できず、甲第四号証は若し真実に同号証表示の貸借がなされれば貸主の手にあるべきもので、原告の手にあるべきものではないのみならず、証人和田順吉の証言によれば、同号証記載の貸借は実現しなかつたことが認められるので、貸借契約成立の証拠とはなし難く他に原告主張の前示事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて成立に争いのない甲第一、第三、第五号証、乙第一乃至第四号証、乙第八号証、証人和田順吉の証言、同証言により真正に成立したと認められる乙第五号証、並に被告坂本新作に対する本人尋問の結果を綜合すれば、原告は、かねてから未完成の建物、或いは古い家屋を買い受けてこれを修繕の上、他に転売していたが、昭和二十九年一月一六日頃、生活費等資金の調達をする必要があつたので、これより先一年位前に入手していた本件建物の売却方をその友人である訴外和田順吉に依頼したこと、しかして原告は、同人の斡施により、同年二月五日、被告坂本新作を介し、その娘婿である被告坂本五良との間に本件建物につき売買の予約をし、更に翌六日、右予約に基き、同被告に対し、本件家屋を代金二十万円の定めで売り渡し、同日、右代金のうち金三万円、同月十日残金十七万円の支払を受けたこと、尚右売買当時、本件家屋は未登記であつたが、同月九日、東京法務局中野出張所受付第一五九四号をもつて原告のため所有権保存登記、同所受付第一五九五号をもつて同被告のため右売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記(この仮登記の存在は当事者間に争いがない)がそれぞれ経由されたこと、その後、被告等は、本件建物には原告及びその家族が居住し、その明渡を求めることが必ずしも容易でない事情が予想されたので、同年二月十五日頃、原告に対し、同年七月十日限り本件建物を明け渡すか、さもなくば、それまでに本件建物を代金三十七万五千円で買い受けることを折衝し、更に同年二月十八日、被告坂本五良は、被告坂本新作を代理人として、原告を相手方とし、前記第一の記載の調停を申し立て、同記載のような調停条項を骨子とする調停を成立させたが、その際、原告に対し、さきに原告が被告五良に売渡した代金を五万円増額することを約し、翌六日、右金五万円を支払つたことが認められる。尚調停条項中には買戻という文字はあるが、その特約が売渡契約と同時になされず、買戻を受け得る金額が売渡代金と別異に定められ、契約費用等についての定めがない点等から売主側に売買契約を解除する権利を留保した民法にいわゆる買戻の特約がなされたものではなく、再売買の予約をしたものと解するのが相当である。

以上の認定の事実によれば、右調停は、原告と被告坂本五良との間の真実の合意に基き、本件家屋に関する売買契約並に明渡及び再売買の予約等につき成立したものと云わざるを得ない。従つて右調停を目して、原告と被告五良乃至その代理人被告新作とが通謀してなした虚偽の意思表示により成立した無効のもの、又は、被告五良代理人被告新作の欺罔により原告が応諾した詐欺により成立したことを前提とする原告の調停無効確認の請求は、失当として棄却すべきものである。

次に被告坂本新作に対する不当利得返還請求につき判断する。

原告主張の第二の(一)の事実のうち、被告坂本新作が弁護士であること、原告が昭和二十九年二月十日、同被告に対し、原告の安田生命保険相互会社に対する報酬請求事務処理を委任するについての着手金として、金五万円を支払つたことは被告坂本新作の認めるところである。

しかしながら、原告が右同日、同被告との間に右報酬請求についての事務処理に関する委任契約の予約をしたとの点については、これを認めるに足りる証拠はなく、かえつて証人横山つる、同諏訪次郎、同和田順吉の各証言、原告並に被告坂本新作に対する各本人尋問の結果を綜合すれば、原告はかねて安田生命保険相互会社の外交員として、保険契約の勧誘、締結等の業務に従事していたところ、昭和二十九年二月十日当時、同会社に対し、保険契約締結の勧誘による報酬として金百余万円の請求権があると考え、同日、その請求についての事務処理を弁護士としての被告新作に委任し、同被告は、これを受任し、前記のように着手金として金五万円を受け取つたことが認められる。しかも、原告が昭和二十九年三月二十日、同被告に対し、その主張の委任の予約を解除する旨の意思表示をしたことは同被告の認めるところであるが、右解除の意思表示は前段の委任契約解除の意思表示であるとも解することができるので、その解除後における着手金の処置関係についてしらべてみると、成立に争いのない乙第九号証、鑑定人宮本正美の鑑定の結果を綜合すれば、東京地方においては弁護士が受任した事件の処理に着手した後、その責に帰すべからざる事由により解任された場合には、着手金を返還しない慣習が存在することが認められる。しかして、前述のように、原告が同被告に右委任をし、着手金五万円を支払つた際、右慣習によらない旨の特段の意図の存したことを窺知させる証拠のない本件では、原告に右慣習によるべき意思があつたものと認めるのが相当であり、又成立に争いのない乙第十乃至第十二号証、証人桑原豊、同小滝満治郎の各証言、被告坂本新作に対する本人尋問の結果を綜合すれば、同被告は、右受任後解任されるまでの間に生命保険会社とその外交員との間の保険契約の勧誘、締結に関する報酬契約の内容等につき他の弁護士、その他保険業関係者等を煩わして調査を開始したことが認められるところ、その後、原告は同被告に対する前示委任契約を解除したが、その解除の理由が原告としては、その主張するように同被告に対し信頼が措けないと考えたためであつたにしても、客観的には同被告に、原告の信頼に背く所為乃至取引の通念に照らし解除の誘因があると思わせる事情を認め得る証拠のない本件では、原告の委任契約の解除は、被告新作の責に帰すべき事由に基くものではないと云わざるを得ないので前述の慣習により同被告は、本件着手金五万円を原告に返還すべき義務はないものというべきである。

従つて、原告の同被告に対する不当利得返還請求は、失当として棄却すべきである。

更に被告坂本五良に対する不当利得返還請求につき判断する。

原告主張の第三の(一)、(二)の各事実につきしらべてみると、すでに原告の第一の調停無効確認の請求の当否について判示したところにより明なように、原告と被告坂本五良との間に原告主張のような金員の貸借契約が締結されたものではなく、調停条項を内容とする約定がなされたものであるから、原告主張の金員貸借契約の存在を前提とする原告の同被告に対する不当利得返還請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当として棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 毛利野富治郎 浜田正義 佐藤栄一)

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